大阪大学大学院理学研究科附属基礎理学プロジェクト研究センター大阪大学大学院理学研究科附属基礎理学プロジェクト研究センター

「(理学の響宴) しゅんぽじおん」とは
プラトン(Platon)著の『饗宴』で書かれた、科学者が集まり、議論をしかけ、話を膨らませ、『知への愛、フィロソフィア』を説く饗宴。堅苦しくない場でざっくばらんに話し合うことで、新たなアイデアを生み出そうという試みです.

 

しゅんぽじおん−−先生や生徒が一つの部屋に集まり、分野の専門家のお話を聞いて質問・討議をする「それぞれの専門知識を使ったお話の場」だ。

 

といっても、講義や授業のように真面目に話を聞くという場ではなく、ワインとチーズを片手にスピーカーの話を聞き、気になったことを質問するという大分緩やかな場である。

 

今回で10回目を迎えるしゅんぽじおん、そのテーマは「相似とは」である。話者は理学部化学科の深瀬浩一先生、そして情報科学研究科 の和田昌昭先生である。

 

「みなさん、ワインとおつまみは取りましたかー。始めますよー。」

 

司会が会場に声をかけ、少し騒がしがった場が1人目の話者である深瀬先生に注目した。

そうして始まったスライドの1枚目は「相似」をWikipediaで調べてみました、というものであった。

 

「さて、Wikipediaで相似という言葉を調べてみると、次のように出てきます。」

 

全員がスライドに注目する。なぜ最初に言葉のことを話すのだろう、という空気が流れた。

 

「相似を調べると、数学、物理学、生物学には相似という言葉があると書かれています。

 しかし、私のやっている『化学』には相似という言葉がないのです。」

 

化学にだけ『相似』という概念がない。理学の中でただ1つ相似の概念が存在しないという奇妙な状況に、会場からは少し笑い声が漏れた。

しかしすぐに空気が変わる。何故化学にだけ『相似』がないのか、私も含め会場の誰もが疑問に思ったらしい。

 

「相似、を英語で調べてみると、”Similarity”と“Analogy”という2つの単語が出てきます。

 日本語でいう相似とは”Similarity”のことを指すのですが、化学において『相似』に当たる単語は”Analogy”なのです。」

 

なるほど、使用している英単語が違うのか、と私は納得した。

深瀬先生曰く、化学において数学のような『幾何学的な相似』を作り出すことは不可能であるらしい。ペンタセンやヘキサレンなどは似ている、というのが化学屋の感覚ではあるそうなのだが、それは相似とは違うようだ。

 

このような説明をした後、深瀬先生は化学における『相似』を数学物理生物と分けて『機能の相似』だと説明した。

つまり化学における『相似』とは構造式が似ているというものではなく、機能が似ているということだと言う。

 

ここで、機能の紹介をするためにスライドが変わった。

出てきたのはケシの花と種のイラスト。ケシが当初麻酔として使われていたアヘンの材料であるためである。

アヘンの構造式を例に出し、これが痛み止めとしての作用を生み出す部分、などの機能的な説明を行っていた。

しかし問題がある。アヘンは中毒性が高く、麻薬としての作用があるということだ。これでは医療の現場で使うことはできない。

それではアヘンに変わる新しい化合物を紹介しよう、とスライドが次に移る直前。

 

「みなさん、ケシの種は購入できますが育ててはダメですよ。法律に引っかかりますからね」

 

深瀬先生の言葉に会場が笑いに包まれた。

 

次のスライドではモルヒネ(これも麻酔作用があるが中毒性が高い)の構造式が現れた。そして似たようなものとしてメチオニンエンケファリンの構造式も並んでいた。このモルヒネとメチオニンエンケファリンは鎮静作用の相似、そして構造の類似があるのだ。

メチオニンエンケファリンとは、激しく運動すると出る鎮静効果のあるもので、ランナーズハイなどの時に分泌されるらしい。

 

「ということはなんどもランナーズハイになっていると中毒になって病みつきになっちゃうんですか?」

 

その会場からの質問に周りが笑いだす。深瀬先生も笑いながら、

 

「メチオニンエンケファリンはよっぽど激しく運動しないと出ないんですよ。疲れた体に、疲れを感じさせないための物質なので。

 でも、なんどもやっていると少しの運動で分泌される………かもしれないですね。」

 

と答えた。この回答に会場の人も笑いながら隣の人と顔を見合わせていた。運動する人には経験のあることなのかもしれない。

深瀬先生は、モルヒネでは中毒性があるためこのままだといけない。そのため、化学屋は似たような鎮痛剤を開発してきたと仰った。

ヘロイン、オキシコドン、それ以外にもいまだにいろんな人が開発を続けているようだ。

 

話は変わり、機能の似たものとしてステロイドホルモンの話になった。その中には男性ホルモン、女性ホルモンの構造式もあった。

その2つをよくみると、Hが2つ追加であるかないかだけの差しかなかった。会場がこの小さな違いに興味を示し、先生の話を熱心に聞いている。

 

「構造がここまで似ているのに、効果が違うっていうのはどういうことなんでしょうか?」

 

会場からの質問。これに対して先生は、

 

「この2つのホルモンの差は小さいけれども、受容体が受け取るホルモンが違うので、効果が違うんです。」

 

へー!と感心する声があちこちから上がる。小さな違いでも受容体はその違いをしっかりと区別しているらしい。人体の神秘だなと感じる瞬間であった。

 

話が進み、話題は深瀬先生が実際に行っている研究に移った。

 

「ここに大腸菌リピドAという、すごく毒性の強い大腸菌の構造式があるんですけど、」

 

そういってスライドに表れた大腸菌リピドAの構造式。話を聞いていると、この構造式で特徴的なP(リン)を取り除くと、この大腸菌の活性がマイルドになるらしい。これを応用して作られた薬の1つが、話題になっている子宮頸癌の予防ワクチンに使われているようだ。

また、大腸菌と聞くとO-157のような毒性の強いもののイメージがあるが、実は大腸菌のほとんどは病原体ではないらしい。ならばなぜ大腸菌が病原体となることがあるのだろうか。不思議に思っていると、説明があった。

 

「強い病原体だと、すぐに免疫が反応して攻撃されてしまうので、活性をわざと弱めているんです。そうしてギリギリ攻撃されない毒性を攻めているんです。その例の1つがカンピロバクターです。」

 

そうなのかという声や、カンピロバクターで食中毒になったことあるわーという声が会場からちらほら聞こえてきた。

その毒性が免疫のギリギリを攻めて生きながらえようとしていると考えると、免疫と菌の戦いとは過酷なものなのだなと思った。

 

 

そのほか、免疫細胞の中で生きている「共生菌」の存在や、生体分子ネットワークなどの話があった。

特に酵母のインタラクトーム(細胞内全ての分子間の相互作用)を可視化した画像がスライドに表れた時は会場から様々な感想や意見が上がったが、深瀬先生自身の

 

「これを見てもすごい、ということしかわからない。」

 

という発言ほど、会場に笑いが起こった場面はなかっただろう。

そうして会場に様々な議論が起こりながら、1人目の話者である深瀬先生の話は終わったのである。

 

 

一度小休止を挟み、会場がワインとおつまみを補充してしゅんぽじおんは再開した。

2人目の話者は和田先生。情報科学研究科とあるが、理学部でいう数学科に似たようなことをしていると思えば良いらしい

そうして簡単な自己紹介の後に、和田先生は次のように仰った。

 

「最初持ち時間30分って聞いていたんですけど、すでに予定時間過ぎてますね。」

 

実は予定の時間では1人30分の持ち時間のはずだったのだが、この時点で開始から1時間経過していた。しゅんぽじおんでは大体いつも通りのことなので気にしてはいなかったが、改めて言われると確かに、と笑ってしまった。

 

仕切り直して数学的な視点から、「相似とは」というテーマで迫っていく。

 

「みなさんも相似といえば、中学校で習った合同と相似が思いつくんじゃないかと思います。」

 

そういってスライドに表れたのは合同と相似の条件。この条件というのは紀元前に書かれた幾何学原論にはすでに書いてあった、という話から始まった。数学でよく使われる公理、定義、証明による議論の進め方というのは、この幾何学原論のことからあまり変わってはいないのだそう。物理や化学、生物の人にとっては考えられないことである。

 

和田先生の話によると、一口に『相似』といっても複数の意味があるらしい。

まずは『相似』が出てくる数学の分野として、幾何学から迫っていくようだ。

 

次に出てきたのがFelix Kleinのエルランゲンプログラムの話である。これが何であるかというと、幾何学というのが何なのか・どのように研究をしたら良いのかという指針を示したものであるらしい。

 

「Felix Kleinは幾何学のことを次のように言ったんです。幾何学とは『変換群によって不変な』図形の性質の研究である、と。」

 

この話が始まると、会場は和田先生の話を真剣に聞く空気に包まれていた。数学に詳しくない人でも、何か惹きつけるものがあるようだと思った。

 

ここでこの『変換』と『相似』に関して、先生はどんどんと説明を加えていく。

 

「相似変換、というものが幾何学にはあるのですが、これは回転と平行移動とスケール変換を合わせたものなのです。これを相似幾何学という風に言います。」

 

これ以外にも様々な変換があるとスライドで紹介があった。変換に種類があるというのは、エルランゲンプログラムによって生まれたらしい。つまり、ユークリッド以来ふわっとした定義しかなかった幾何学というものに、エルランゲンプログラムは様々な種類付けを行ったというのだ。私は、純粋にすごいことだと感じた。

 

スライドが映り、少し話題は変わった。Leonhard Euler、物理でも有名なこの人の名前が出てきたとき、会場にいた物理学科の人々がスライドをよく見ようしていたのが視界に移った。和田先生が次にどんな説明をするのか、私も楽しみだった。

 

「Eulerの名前を出しました。ただこれから話すことは別にEulerが発見したというわけではないんですけど。」

 

発見したわけじゃないのか、と私は内心突っ込んでしまった。ただ、ここで言いたいことは人のことではなく、次に出てくることなのだろうと構える。

 

「平面状の相似変換は複素数の一次式で表現できるんです。」

 

この説明に会場ですぐにわかった人と、一体どういうことなんだと考えた人がいた。会場もスライドを見ながら、その意味を読み取ろうと真剣に考えているようだ。和田先生はすぐに追加で説明を加えた。

 

『相似』という概念は幾何学的なものだったが、一次式で書けるということによって代数の概念としても扱うことができるようになった。

 

まとめるとこのようなことらしい。この概念の導入によって、正十七角形がコンパスと定規で描けるという事実が代数の証明で発見されたりしたようだ。図形的なことでは見えてこなかったことも、式で表現すれば見えてくることもあるということは、ある問題を別のアプローチから解くことによって解決したということになる。数学も最初から全てが繋がってはいなかったということに少なからず驚いた記憶がある。

 

次に出てきたのはBenoit Mandelbrotのフラクタルという考えだ。フラクタルは異なる2つの縮小相似変換によって自分自身の一部と相似な図形のことらしい。文字で書くとよくわからないが、スライドにあったイラストや野菜のロマネスクなどを見ると、何となくイメージをつかむことができた。

 

「実はフラクタルには数学的な概念はないんです。というより、正しく定義ができない。」

 

和田先生がそういうと、会場からへーっという声が上がった。直感的にはわかることでも、数学的に厳密に定義はできないようだ。

この概念はCGや数理生物学で流行った概念であるらしいが、数学的にはあまり研究されていない、と話された。

面白そうなのになぜ流行らなかったのか、そう思っていると次のスライドに答えがあった。

 

メビウス変換。August Ferdinand Modiusによる回転、平行移動、スケール変換、反転で生成され、複素数の一次分数式によって表される変換のことだ。これがフラクタル以上に流行ってしまったために、フラクタルは注目されなかったようだ。

 

ここまで数学的な話をしたところで、和田先生が宣伝させて欲しいものがあるという。

そして出されたのはOPTiと呼ばれる、和田先生が開発されたアプリケーションだ。直感的にメビウス変換を感じることのできる、無料アプリケーションである。実際に動く様子が紹介されたが、その模様の変化に会場が沸いていた。

その模様に関連して、紹介されたのは超ひも理論の曲だった。この超ひも理論の曲のCDジャケットに当たるイラストは、このOPTiによって書かれたメビウス変換の模様であるという。気になる方はAppStoreとiTunesを検索して欲しい。

 

2人目の和田先生の話が終わった後も、会場で色々な会話が行われていた。

第10回目に当たるしゅんぽじおんは盛況のうちに終了した。第11回はどうなるのだろうか。

(文責: 匿名学生)

 


 

今回で10回目という節目を迎えるしゅんぽじおん。

テーマは 「相似」とは?

登壇者は、理学研究科で、天然物有機化学を研究されている深瀬浩一教授と、情報科学研究科で最近は数理情報学を研究されている和田昌昭教授のお二人。どんな話が展開されたのか、振り返っていきましょう。

 

しゅんぽじおん前半は深瀬先生のターン。

Wikipedia引用から話は始まりました。

 

相似とは、“互いに似ていること”であり、

数学では、“図形の相似、行列の相似”が、

物理では、“相似則、力学における相似”が、

生物では、“相似”がある

(Wikipediaより)      

 

そこに、化学について記述はありませんでした。

 

「では、そもそも化学における相似の概念はないのか?」

 

実際はそうではなく、化学においても“活性”における相似が存在しています。また、数学、物理の相似は“Similarity”と、生物の相似は“Analogy”と訳されます。化学的相似は、どちらかと言うと“Analogy”の概念に近いそうです。深瀬教授は、このAnalogy的化学的相似を軸として、話始めていきました。

 

最初に出てきたのは、アセン類。化学における機能的相似の例です。

アセン類は、化合物の大きさによって、蛍光性を有したり、蛍光色が変化したり、赤外波長へ近づいたりとその性質が変化します。こういった着眼点により、化学では、いくつかの化合物を機能的に相似であると捉えています。が、非常に境界が曖昧であり感覚的な部分が大きいようです。

 

ここでの、

 

「化学には無限がない」「化学で扱うものは所詮有限である」

 

という深瀬教授の発言に、主に物理学科の聴衆から

 

「無限がないとは?」「無限がないのであれば熱平衡はない?」

 

というツッコミが殺到しました。食いつく箇所というのは、専門分野をよく反映しているみたいですね。

 

次は、ケシの花とその成分のお話。ケシの花はアヘンの原料ですが、ここで

 

「なぜ、植物の作る分子が麻酔効果をもっているのか?」

 

という疑問が生まれます。実は、1970年代、モルヒネを感知するレセプターが脳内に発見されており、これによりアヘン(モルヒネ)が人にも作用します。人間も、エンケファリンという脳内麻薬を分泌します。エンケファリンの部分構造とモルヒネの構造が類似していること。これにより、本来エンケファリンと対応するレセプターが、モルヒネにも反応し麻酔効果をもたらすのです。

 

ホルモンも話題に挙がりました。女性ホルモンは、男性ホルモンから作られており、違いはたった水素原子2つ分。これは、受容体の差異によって見分けられているんです。どうして人間がこういう選択をしたのかは不明ですが、生物体が如何に緻密な反応や構造によって構成されているかを思い知らされました。

 

化学物質においては、構造、活性がともに類似しているものばかりではありません。活性は類似しているが構造が大きく違うものや、構造が少し違うだけで反対の活性を示すものも存在しています。やはり化学の世界も、一筋縄では語れないのですね。

 

そして話は、タンパク質、病原菌、バクテリアと移っていきました。

タンパク質構造の3Dモデルを示しながら説明をする深瀬教授。どんどん説明して行くわけですが、タンパク質構造は3Dモデルや拡大図にしても複雑極まりないものです。(私も、授業中にタンパク質構造を見せられた時はポカーンとするしかありませんでした。)ということで、聴衆の皆さんも「わからんなぁ~」と言わんばかりに笑っていらっしゃいました。

一方、わざと活性を弱めて、すぐには自然免疫にやられまいとする病原菌の戦略には驚嘆しました。また、自然界には、免疫細胞内に生息し共生作用を示す珍しい共生菌存在するとのこと。深瀬教授、これを使って何かを企んでおられるようです。

 

話を聞いていく中で、化学的相似、“活性の類似性”という観点から化学を見直せました。普段はここの性質ばかりを見がちですが、時々俯瞰してみると別の物事が浮かび上がってきて面白いです。深瀬教授は最後に、“ネットワーク構造から細胞構造を導き出すことが化学の大きな目標の一つ”とおっしゃられていました。機械学習や計算能力が指数関数的に跳ね上がっていく現代においては、電脳空間に細胞を再現できる日もそう遠くないと思えます。

 

 

さて、しゅんぽじおん後半は、和田教授のターン。

 

和田教授は、大阪大学大学院情報科学研究科所属。情報科学研究科は、理学部数学科と基礎工学部の一部の研究室から創設された専攻とのことでした。

 

早速、

「情報学部はつくらない?」

と野次が飛び、

「私がどうこうできることじゃない・・・・。西尾総長が画策されているようですが。」

と、和田教授が応答。情報処理や機械学習がどんどん必要とされている昨今ですから、情報学部の創設は求められていることなのかもしれません。その後、今回の登壇依頼対して、色々思うところをぶっちゃけた後、

 

「(今日、言いたいことは)半分言った」

 

と笑いを取って、本題へ入っていきました。

 

“相似”とは? というテーマから、和田教授は「幾何学」をチョイス。著名な数学者を取り上げながら幾何学の世界を巡りました。

 

ユークリッド(?)

まずは、ユークリッドの幾何学原論からスタート。2000年以上前、ギリシャ時代に書かれた書物で、“物事の定義”や“公理”を元にした議論の手法が確立されたそう。2000年以上経過した現代数学でも、この議論の手法が用いられており、他に類を見ません。それだけ長期間変わることなく用いられているのですから、数学が如何に厳密な議論に基づいている学問であるかを実感できることと思います。

 

これ以降は、時代を一気に遡って18~19世紀の数学者が取り上げられました。

 

ヘリックス・クライン(1849~1925)

ヘリックス・クラインは幾何学に絶大な影響を与えた「エルランゲン・プログラム」を考案した方です。彼は、

 

幾何学とは、変換群によって不変な図形の性質の研究である。

 

として、幾何学を変換群ごとに分類しました。例を以下に挙げてみます。

 

合同変換で不変な図形の性質の幾何学→「合同」幾何学

相似変換で不変な図形の性質の幾何学→「相似」幾何学

射像変換で不変な図形の性質の幾何学→「射像」幾何学

同窓変換で不変な図形の性質の幾何学→「位相」幾何学

                      ・・・

 

現代も、この流れが受け継がれているそうで、その影響の程を伺いしれます。

 

オイラー(1707~1783)

現代数学に大きな影響を及ぼしたトップ5に入るらしい、オイラー。オイラーの公式には馴染みのある方も多いかと思います。さて、オイラーが生きた時代に幾何学と代数学とによる劇的な出会いがありました。これにより、

 

平面上の相似変換は複素数の1次式で表現される

 

ことが分かったのです。簡単に言うと、次のことが成り立つってこと。(たぶん)

 

回転             

平行移動       

倍のスケール変換 

 

相似変換はそれらの合成 で表現される

 

「こういう全然違った分野の概念が出会うことがあると、そこに面白い理論、深い数学が展開する」

 

と和田教授も熱弁されていました。この出会いによって、「正17角形の作図がコンパスと定規だけで可能だとわかった」というのは、個人的に非常に衝撃的でした。

 

その後も、マンデルブロットのフラクタル、メビウスのメビウス変換を取り上げながら、幾何学の世界を見ていきました。特にフラクタルは、一時期生物やコンピューターグラフィックで有名になりましたので、ご存じの方も多いかと思います。

 

最後は、和田教授自身の研究について。和田教授が開発し、AppleStoreで無料公開中のOPTi4.0は、メビウス変換を視覚的に捉えるための研究ソフト。実際に、操作して見せていただきましたが、そのプログラムが描き出す美しい幾何学模様やその変化に、感嘆の声とともに聴衆一同釘付けになりました。また、教授の

 

「理学部というところは、面白いからやっているわけで」

 

という一言に、理学部がどういう学部なのかが凝縮されているように感じられてならないです。しゅんぽじおんで登壇される先生方は、皆さん例外なく楽しそうに語られます。自分が「面白い、突き詰めたい」ことをされているというのを、毎回レポートを作成しながらヒシヒシと感じる次第です。

 

そして、最近の数学界については、発見を評価する時代が必要だと主張。20世紀の数学界は、これまでに発見された仮説や理論の証明ばかりに取り組み、そういう人ばかりが評価されてきたそう。でも、そろそろ発見を探さないと面白いネタが尽きてしまうという危機感があるそうです。証明だけでなく、発見も評価される時代になってほしい。そんな思いを語り、橋本教授とのコラボになる“超ひも理論の歌”を披露して終わりとなりました。

 

今回で10回目を迎えたしゅんぽじおん。初回からほどんど欠かさず参加している私ですが、前後の雑談・議論も活発化し、話途中の発言も増えてきていると感じています。どんな形であっても、このような集まりが続いていき、色んな人が巻き込まれていくことを願ってやみません。

 

(文責: 藤井匠平)