新しい技術開発
その他の質量分析技術の開発
超臨界流体抽出・クロマトグラフィーと中真空化学イオン化法を組み合わせた質量分析装置の開発
超臨界流体抽出(SFE)/クロマトグラフィー(SFC)と中真空化学イオン化法(MVCI)を有する質量分析装置とを直接接続することで,従来の方法では分析が困難だった難揮発性有機物の迅速かつ高感度での質量分析を可能にする技術開発を行なっています(Anal. Chem., 93(2021) 6589 – 6593).
中真空化学イオン化法は,大気中の揮発性有機化合物(VOCs)を迅速かつ高感度に検出する質量分析法のイオン化法として使われてきましたが,その対象物は,揮発しやすい低分子化合物に限られていました.一方,超臨界流体抽出やクロマトグラフィーは,従来の分析手法では困難な化合物に適用できる手法として応用が期待されています。
この迅速な物質の抽出・分離が行えるSFE/SFC 技術と,MVCI質量分析装置とを組み合わせることで,物質によっては,従来の1000倍もの高い感度で非極性物質を検出することができています.MVCI法では,①SFE/SFCで溶媒として用いる二酸化炭素がイオン化されないため目的物質の質量分析を邪魔しないという点と,②真空下の閉じた空間でイオン化を行うため超臨界流体状態を保持して質量分析を行える点に着目し,実現した技術です.
自走式麻薬探知犬の開発
将来,麻薬探知犬にかわるようなMULTUMを搭載した自走式ロボットの開発を目指しています.MULTUMの更なる軽量化とともに,自走式ロボット技術の構築を,企業群とともに行なっています.
新しいイオン検出器の開発
浜松ホトニクス株式会社と共同で,MCP(Microchannel Plate)とAD(Avalanche Diode)を組み合わせた新しいタイプのイオン検出器を開発しています(Nuclear Inst. and Methods in Physics Research, A, 971 (2020), 164110).また,MCPの飽和現象,ゲイン低下現象のメカニズムの解明を目指した研究も行なっています.
イオン軌道シミュレーション(イオン光学)
イオン軌道シミュレーション手法の開発を行なっています.当研究室では長年transfer matrix法により軌道計算を行なっています.1976年には,3次近似のイオン軌道シミュレーションプログラム「TRIO」が完成し,飛行時間の項を追加した「TRIO-TOF」や,イオン軌道を視覚化する機能を追加した「TRIO-DRAW」や「TRIO 2.0」を開発し,質量分析装置の開発に用いてきています.
また,表面電荷法によるray tracing技術の開発も行なっています.1992年には「ELECTRA」を開発しました.その後,分子動力学シミュレーション専用の超高速計算機「MDGRAPE-3」を用いて,クーロン力を並列計算することで高速に軌道計算できる手法の開発も行なっています(Nucl. Instr. and Meth. A, 600 (2009), 466-470).最近では,GPUなどを用いた高速化手法の開発も行なっています.
PM2.5原因物質の探求(紀本電子,清華大学との共同研究)
質量分析オープンイノベーション協働ユニット
複数の大学の研究者と複数企業のコンソーシアムです.大阪大学が有する質量分析技術開発をコアに,理学研究科、他研究科、他大学の様々な研究者と質量分析に関連する企業群が密に連携することで非競争領域での基礎研究からのオープンイノベーションで,グローバル社会における課題群の探索と,それらの解決を目指しています.短期的な出口を見据えた研究ではなく,中・長期的な観点での研究・開発を行います.あわせて,絶滅が危惧されるような基盤的技術(前処理,クロマトグラフィー,アナログ電気回路,ソフトウェアなど)の継承と共有化,人材育成も行うことを目指しています.
北海道大学,東京大学,長浜バイオ大学,関西大学,鳥取環境大学,愛媛大学,九州大学,医薬基盤・健康・栄養研究所, 日本電子,浜松ホトニクス,紀本電子工業,KRI,MSI.TOKYO,アキリスジャパンなどが参画しています.